再生不良性貧血に用いる漢方の一考察
いつもアクセスを有難うございます。
本日のテーマは「再生不良性貧血」です。当店業務から直接依頼ありましたので、以下、過去の経験方を含めての拙稿です。
八珍湯という処方
過去は貧血のご相談を多く頂いています。その大半が鉄欠乏性貧血なのですが・・・。
しかしながら・・・再生不良性貧血の場合の漢方相談は年に何症例というごく少ない頻度であるため、確固としたことは記載できません。
それでも個々の体質や症状を確認し、漢方をお渡ししてきた経験論から拙稿してみます。
まずは一番処方頻度の高かったのは八珍湯という処方です。(四君子湯+四物湯の合方)また、併用薬としては頓服的に牛黄製剤も使用している症例が多いですね。
牛黄は、末梢血管拡張作用と血流量の増加を期待でき、かつ再生不良性貧血における独特の酷い倦怠感、息切れ、動悸などに対応して頓用としております。
今までのデーターをとりまとめ
60歳以上が約半数以上を占め、残りは本来であれば社会で十分に仕事のできる40代~50代、あとは極めて珍しい症例であるが20代もいます。
顔色が極めて良好となり、今までほとんど終日寝たきり状態であった患者がなんとか歩行する意欲がでてきたのには驚かされますね。
まさに気血両虚の状態であった者が半月も経過しないうちに薄皮を剥がすように・・少しずつ元気になっていくのが目に見えてわかる患者さんもいらっしゃいました。
逆に当方の紹介した漢方が全く効かないとして1週間もしないうちに止めてしまったお客様も過去にいます。漢方薬は病院のステロイド剤と違うのです。その辺からまずよくご理解して頂きたいのです・・なんて偉そうには言えません。。
投薬状況の確認は約1ヶ月目で必ず当人とよく話し合い、漢方製剤の投薬量の微調整をし、併せて私生活の状況や食事、運動と睡眠、ストレス解消論なども積極的にしています。
改善度には年齢的にも差はあるが、当初は3ヶ月間の目標で投薬計画を立て、これを1クールとして、一か月毎に観察し証の状況をも確認することにしています。
この時点で、投薬量の見直し、増減を図り、再度2クール目へ移行していく。患者によっては6ヶ月目で減薬の計画を立て、概ねそれから2ヶ月を要してゆっくりとフェイドアウトすることが有ります。
再生不良性貧血の患者さんは例え病態が目覚ましく改善したとしても、心身ともにデリケートであるため、なぜ減薬し廃薬に至るのかを、よくよく説明をする必要がありますね。
特に当方の病院勤務時代からの経過観察によると、漢方と言えども突然の投薬中止は患者さんにとっては逆に大きな不安を残し、ストレスとなることも考慮しなければなりません。
そして十全大補湯
ただ、70代以上になると過去は脳血管障害をも発症した患者さんそれなりにいて、予後は後遺症を有している事例も多い。既に高齢者独特の遷延性のうつ症を合併している症例もあります。
これは薬局開設10年目のことで、この八珍湯だけに頼っていた私にも「大きな曲がり角」がきたと申しても良いでしょう。
このため、八珍湯からスライドしてこれに桂枝と黄耆を加えた「十全大補湯」に変更すると、特に「気」の面での改善度は服用前と比較して格段に違うものを感じました。
また若年性の再生不良性貧血では、ステロイド療法や免疫抑制剤治療などを既に大学病院等でしてきた患者さんが多く、そのほとんどが気虚の証が顕著と言えます。
中には自律神経失調の傾向もあり、不安・不眠のため病院からトランキライザーの処方例も多く、久しぶりの散歩で歩行中の転倒もままならないケースもありました。
そこでやはり同じ「十全大補湯」を用いてみると朝の目覚めが改善し、悩まされてきた眩暈(めまい)の回数が激減するなど改善度は明らかに有ることが確認できました。
さて・・それから・・さらに10年。
近年になり、超高齢化社会、さらなるストレス社会を迎え、当店では再生不良性貧血の対応は補剤「十全大補湯」をメインにして、証の補足としては「牛黄製剤」を頓用としている事例が多いと感じます。
あくまでも個人の病状や合併症が介在すると臨時薬(短期投薬)として民間薬の「腎臓仙」とか、または医薬品ではなく、食品である「田七人参」又は「高麗人参末」とかが加わることもあります。
再生不良性貧血は、実に難治な疾病でありますが、漢方はあくまでも造血を促し、血行を改善し、人体本来の平衡を保ち、気を平らかにするものであるとして患者さんにご説明することが多いと思います。
また、漢方だけに全てを頼るのではなく、漢方を自身の生活の中に溶け込ませ、同じ東洋医学である鍼灸や、日々の食事に薬膳なども工夫して入れて欲しい旨をお話しをよくいたします。
さて、「十全大補湯」を取り扱っている一般用医薬品である漢方製剤は数多くのメーカーが製造していますね。
当店でも5社の十全大補湯を取り扱っています。それぞれ、使用素材のルーツ(産地)やエキス製法までが微妙に違うと言っても過言ではありません。
どこの漢方メーカーをそれぞれ得意技があるようで、特に補剤については人気が高いため、患者さんも迷うところでしょう。
但し、当疾病に用いる方剤は必ずしも「十全大補湯」のみに限定しているわけではなく、個人の体質によっては別の方剤になることも有り得えます。あくまでも一考察であることをご了承ください。
●小太郎漢方匙倶楽部シリーズの十全大補湯エキス細粒G「コタロー」84包(28日分)
税込12,096円
又は、
●三和生薬Aシリーズの十全大補湯エキスA細粒90包(30日分)
税込8,640円
● 資料
※以下は再生不良貧血についてのご説明です。
【再生不良性貧血】
再生不良性貧血は、骨髄にある造血幹細胞(血液細胞の元となる細胞)が何らかの原因によって減少し、
赤血球、白血球、血小板のすべての血球が減る疾病と言えます。
初期には血小板だけが減少することもあります。
同じように血球が減る病気はいくつかありますが、そのなかで骨髄細胞の密度が低く、白血病細胞のような異常細胞を示す疾患を除くことにより正式に診断がくだされる。
年間の発生数が、100万人あたり約6人の希少な疾病とも言えます。
年齢別の罹患率では、20代と60~70代にピークがあります。
再生不良性貧血の80%以上は誘因が不明ですが、一部は、抗生剤や鎮痛薬などの薬物投与、ウイルス感染、原因不明の肝炎などに続いて起こることがわかっている。
再生不良性貧血の治療方針は重症度によって大きく異なる。このため診断時の血球減少の程度によって重症度がステージ1から5に分けられている。
好中球数が500/μL以下、血小板数が2万/μL以下、網状赤血球数が2万/μL以下のうち、少なくとも2項目以上を満たす状態をステージ4、5、
これらは満たさないが輸血が必要な状態をステージ3、それ以外の軽症はステージ1、2に分類されている。
【原因の考察】
ウイルス感染や薬剤性、環境因子的な誘因などが引き金となるとの説が有力。
つまり造血幹細胞自体の異常や造血幹細胞に対する免疫反応が誘導され、造血幹細胞が増殖できなくなった結果、発症すると考察される。
その理由として再生不良性貧血の多くが抗ヒト胸腺細胞免疫グロブリン(ATG)やシクロスポリン(CSA)などの免疫抑制剤により改善することから考えられる。
またファンコニー貧血という先天性の再生不良性貧血では、造血幹細胞の遺伝子の異常が検出されている。
【主症状】
顔面の蒼白・息切れ・動悸・めまいなどの貧血による症状、および皮下出血斑・歯肉出血・鼻出血などの出血傾向が挙げられる。
好中球減少の程度が強い例では、感染を併発して発熱が認められることもある。
貧血が高度であっても進行が遅い場合には自覚症状があまりなく、初期の段階では発見されにくい。
【診断の流れ】
血球が減少している(汎血球減少)ことを示すと同時に、骨髄の細胞密度が低いことを、骨髄穿刺(針を刺して採取する)と骨髄生検により確認する必要がある。
一般に測定される血液細胞は赤血球、白血球、血小板の3つであるが、骨髄のはたらきを評価する場合には、これに加えて網状赤血球という未熟な赤血球の数を調べる必要が出てくる。
骨髄を検査できる骨は、胸骨という胸の中心に位置する骨と、腸骨という骨盤の骨に限定される。
全身の骨髄の状態を評価するためには、MRI検査を行う必要もある。
あります。MRIの結果、胸部や腰部の脊椎骨の骨髄密度が低ければ、骨髄低形成の診断は確実となる。
再生不良性貧血との区別がとくに難しいのは、骨髄異形成症候群のうち、骨髄中の芽球(白血病細胞に似た幼若な細胞)の割合が5%未満の不応性貧血です。
不応性貧血では細胞の形に異常(異形成)がみられるが、再生不良性貧血でも軽度の異形成がみられるため、両者の区別には困難を要し、高度の専門的な判断を必要とする。
不応性貧血または再生不良性貧血かの判断に迷う例のなかには、発作性夜間血色素尿症(PNH)で認められる特定の膜蛋白が欠失した血球(PNH型血球)が増えている例がありる。
このような例の病態は、骨髄異形成症候群(前白血病状態)様でなく、再生不良性貧血と同様である(免疫抑制療法によって改善しやすい)ことが知られている。
【医療機関における治療方針】
再生不良性貧血に対する治療は、
●免疫抑制療法
●HLA(ヒト白血球抗原)が一致する血縁ドナーからの同種骨髄移植
※20歳未満の若年の患者さんでHLAの一致する血縁ドナーが得られる場合には、一般に同種骨髄移植が適しています。
※40歳以上の患者さんでは、移植に伴う合併症のために生存率が低下する。このため免疫抑制療法が第一選択の治療と考えられている。
※20~40歳の患者さんに対しては、骨髄移植と免疫抑制療法のそれぞれの長所・短所をよく説明したうえで、患者さんの希望に応じた治療を選択する必要がある。
●免疫抑制療法の場合
治療が効いたとしても骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病へ移行する例が5~10%存在することが問題点である。
●骨髄移植の場合は10%前後の移植関連死亡が起こることが問題です。
非血縁ドナーからの骨髄移植は、拒絶反応や移植片対宿主病(GVHD)などによる早期死亡の頻度が高く、10歳以下の小児を除いては今のところ長期生存率も低いため、適用は免疫抑制療法の無効例に限定される。